黒いDakota製の財布は重宝しています

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私の二十歳の誕生日に、親子ほども年の差のある職場の先輩(女性)から本革の小銭入れをいただきました。Dakota製の物だったので、安からず高からずのそれなりの値段だったとは思いますが、その当時は、革製品には全く興味がなく、それどころか革の独特の臭いや地味さから、ちっとも気に入りませんでした。

けれど、直属の先輩で、しかも当時、関係が決して良好とは言えなかった方からの誕生日プレゼントと言う“無言の圧力”から、仕方がなく使い始めました。
実際に使ってみると、コンパクトなその小銭入れは、職場の制服のポケットに入れておけば、そのまま近くのコンビニに出かける事が出来たり、電車に乗る際は小銭入れの裏面にある仕切りに、切符やカード収納する事が出来て、大活躍してくれます。

また、色が黒色なので、結婚式や葬儀などという冠婚葬祭時で、しかも、手荷物をコンパクトにまとめなければならない時には、特に重宝しました。
使い始めて5年ほどが経った頃、毎日使っていたからなのか、開け締めするホックが緩くなり、常に小銭が見えているという、事態が発生しました。それでも“気のせい”だと使い続けた結果、小銭入れからコインが飛び出し、バックやポケットの中に散乱するという財布にはあるまじき、最悪な事態に陥ってしまいました。

使い始めた時こそ、“壊れたら速攻で、いや、壊れた事にして半年くらいで捨ててやる!”と思っていたのですが、5年の月日は私を大人へと成長させていました。その頃私は、“先輩は怖くても、コイツ(小銭入れ)は悪くない”と大人な選択をとれるようになっており、その小銭入れに“情”を見出しはじめていたのです。

私は先の尖った金づちを購入し、慣れないながらも金づちの先端を駆使し、途中、自分の指を打ち付けながら、素早く開け閉めが出来、しかもちょっとの衝撃では開く事の無いような、最もベストな固さのホックへと改良して行きました。その技術を習得した私は、ホックが緩む度に金づちを使い、“何という事でしょう”と言いたくなる様なリフォームを繰り返しました。

そんなある日の事、“年期の入った小銭入れだね”と、親しくしていた先輩から尋ねられた事がありました。私は一瞬、戸惑った後、“これ、○○さん(先輩の名)が昔、誕生日にくれたものですよ?”と言葉を返しました。そう、言ってきたのは、小銭入れをプレゼントしてくれた張本人だったのです。誕生日プレゼントは毎年くれるのですが、ここ最近は互いの誕生日に食事をご馳走するのがパターン化していて、すっかり忘れていた様でした。

今でも修理しながら大切に使っている旨を話すと、先輩はとても喜び、“そんなに使ってくれてたんなら新しいのをプレゼントするよ”と言ってくれました。けれど私はこの小銭入れが好きなので、丁重にお断りさせていただきました。

それから更に月日が流れ、当時二十歳だった私も二度目の成人式を数年後に控える年になりました。私が年を取るという事は、その人も年を取るという事で、その人は二年後の誕生日に定年退職を迎えます。

最初は、厳しくて怖くて、苦手というか大嫌いな先輩でした。それが、対等に認めてくれるようになり、仕事で大失敗した時は一緒に泣き、一緒に辞表を提出するまでになりました。結局、辞表提出は無かった事になり、今でも同じ職場に籍を置かさせていただいていますが、その頃から先輩と私の心の距離は一気に、ぐっと近くなった様に思います。

結婚はしたものの、子供に恵まれなかったその先輩は、長い月日の中で私を娘と思ってくれている様です。私も今では第二の母と慕っていますから、私の結婚式では花束贈呈の儀式は両親とその先輩に花を贈りました。

二年後の先輩の還暦祝いの際は、赤のワンポイントの入った小銭入れを贈ろうと計画しています。小銭入れにはコインだけではなく、先輩と私の20年間の思い出も沢山詰まっています。